カテゴリー | 先進治療
ファイザー/ビオンテック社およびモデルナ社は、COVID-19に対するメッセンジャーRNAワクチンを創製から上市までわずか1年足らずと迅速な開発を成功させました。その結果、mRNAプラットフォームの妥当性が確認され、さまざまな疾患への適用に関心が集まっています1 。ワクチンの開発、製造、サプライチェーン・ロジスティクスを網羅する幅広い経験をもとに、次世代ワクチン・治療薬の開発・製造にmRNA技術が果たす役割について深い知見を蓄積したサーモフィッシャーサイエンティフィックは、医薬品を開発し、患者さんに届けるという製薬企業各社の取り組みを支援いたします。
世界をリードする製薬企業間で生まれたイノベーションと共同作業により、COVID-19ワクチンを人々に届けることが可能となりました。今後も、このイノベーションと共同作業は、高い安全性と品質を備えた新たなmRNA医薬品の開発に大きく貢献するでしょう。しかし、mRNA技術が持つ可能性を発揮させ、他の病原体に対するワクチンを開発するには、複雑な処方、薬物送達、スケールアップといった課題を解決しなければなりません。克服すべき課題は大きく3つのカテゴリーに分かれます。
1.mRNAワクチン開発に特有の特性
研究者や薬物送達のエキスパートの努力によりこのような課題は徐々に解決され、mRNAの安定化、細胞取り込み率の向上、毒性低減、製造工程のシンプル化・標準化を実現できる有効な戦略が構築されました。
2.プロセスの課題解決、ワークフローの合理化に必要とされる生産能力計画のパラダイムシフト
従来型のワクチン開発は平均8〜14年かかりますが、新規プラットフォームでは、前臨床開発に要する期間はわずか14〜42日と極めてスピーディーな開発が可能となり2 、この結果、緊急承認制度のもと、1年足らずで有効なワクチンが上市されました。mRNAワクチンの速やかな製造を実現するには、厳密な品質管理、分解や汚染の回避による高い純度・精度の確保、無菌ろ過や安定性、精製に関する配慮、低温維持などのハードルを克服しなければなりません。生産能力計画も不可欠の要素であり、全世界で推進されているワクチン接種に対応するには、製造施設のネットワークを駆使して数百万回分ものワクチンを製造しなければなりません。このようなハードルを克服するには、世界各地に製造拠点を整備し、効率性の高いエンド・ツー・エンドの総合的サービス、高度なワークストリーム管理技術などによりワークフロー全体を支援できるとともに、サプライチェーンの問題も解決できる医薬品受託製造開発機関(CDMO)と提携することが重要です。
パンデミック下での活動で得られた学びから、臨床試験をより速やかに開始すること、そして製造ソリューションにより早期に取り組むことにより、品質を犠牲にすることなく開発期間を短縮できることが明らかとなりました。このアプローチでは、ワークストリームの各工程を順次進めるのではなく、平行して進めることが必要です。適切な薬物送達システムの構築が最も重要であることに変わりはありませんが、製造工程の最適化や最終剤形の選択などの優先順位付けを再検討することにより、早期上市を実現できる可能性があります。リスクマネジメントはこのアプローチに欠かせない要素であり、開発の合理化や製造課題の早期把握、フルスケールでの生産開始に先立つこれらの課題解決など重要なメリットが得られます。
プラスミド製造および薬物送達システムを最適化できれば、標的疾患が変更になってもmRNAワクチン製造には大きな利点があります。コード化された抗原は合成中に切り替えることが可能であり、その他の製造工程は変更する必要はないからです。このため、同じ薬物送達システムと製造工程を用いて数多くのワクチンを作ることができる可能性があります。一社のCDMOがワークストリーム全体を管理すれば、すべてのチーム・施設をさらに効率化することが可能です。
このような開発期間の短縮により、パンデミック以外のワクチンも含め、将来のワクチンはさらに迅速に上市することができるでしょう。研究、臨床試験、製造工程に関わる作業を同時に進めることにより、他の医薬品技術よりも低いリスクで開発期間を短縮することが可能です。
3.グローバルサプライチェーンの問題、必要とされる投資とイノベーション
円滑なワクチンの製造・供給には、必要なすべての原料と適格性が確認された輸送サービスを利用できなければなりません。今回のパンデミックでは、医薬品サプライチェーンのエキスパートはエクスプレス配送業者のサービスや他社との提携、積極的なモニタリング技術を駆使しました。この経験に基づいて改良されたワクチンの開発・製造方法は、将来のあらゆるワクチンに適用可能であり、プロセスの合理化、リスク低減に役立つでしょう。CDMOが学んだ重要なこととして、次の2点が挙げられます。まず輸送の課題は、民間の貨物航空便ではなくエクスプレス配送業者を使うなど、新しい貨物輸送オプションを開拓することにより解決可能であること、そしてバーチャル監査やデジタルモニタリング技術により、低温輸送の実績がないサプライヤーや輸送業者の活用が可能となることです。
パンデミック下で円滑なワクチン供給に貢献したソリューションは以下のとおりです3。
パンデミック下で使用されたさまざまな革新的サプライチェーンソリューションを図1に示します。
図1:COVID-19パンデミック下での革新的サプライチェーンソリューションの導入4
mRNA医薬品は、COVID-19以外にもさまざまな可能性と価値を秘めています。サーモフィッシャーサイエンティフィックは、この領域に継続的に資源を投入することにより、お客様の将来のニーズに対応できる競争力を強化しています。
mRNA医薬品については引き続き臨床研究が非常に活発に行われており、 ThinkGlobalHealth 誌によると、2021年後半には、呼吸器疾患、癌、メタボリックシンドローム、腎疾患、心疾患、肥満などを対象とした1,961の臨床試験が進行中でした5 。mRNA以外にも、アンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)、低分子干渉RNA(siRNA、最近承認されたコレステロール低下薬inclisiranなど6)、マイクロRNA(miRNA)、アプタマーなどのRNAを用いた治療モダリティが開発されています7。自己増幅RNAも開発が進んでおり、従来型mRNAよりも低い用量で高い抗原発現を誘導することにより、免疫原性を向上できることが期待されています8 。mRNAをベースとした開発品のすべてに、標準 in vitro転写(IVT)プロトコールを利用できるわけではないため、製造業者は独自のアプローチを開発する必要があり、培養工程、精製工程の双方にばらつきが生じます。変化し続ける市場ニーズに対応するには、mRNAというツールを調整しなければなりません。
RNAをベースとした技術に興味のある製薬企業各社は、総合的な開発サービスを整備し、社内に科学、製造、ロジスティクスに関する高い専門知識を備え、厳密に管理されたプロセス、緊密に連携する施設ネットワーク、高度な品質管理を提供できるCDMOとの提携を検討することが重要です。パンデミックによる原料不足や輸送の混乱の中で経験を積んだCDMOは、これらのサポートシステムを活用し、次世代ワクチン・治療薬の開発・製造を効率的・効果的に進めることが可能です。